どの季節より痛い、春の孤独





夢見る頃を過ぎても   −第三章−

0.序章







 ───愛していなければ、こんな罪は犯さなかった。
 そんなことは今更、言い訳になどならないと分かっているけれど。
 それでも、たった一つの真実だから。
 この想いを抱きしめて。
 儚い夢の幕を今、震える手で下ろそう───。




      *      *




 未だ肌寒く感じられるこの季節、窓の向こうでは満開の桃の花枝が微風にわずかにそよいでいる。
 するべきこともなく、ぼんやりとその様を眺めていた太公望は、背後で動いた気配にはっと振り返った。
 広くもない部屋の奥に置かれた寝台の上で、横たわった人影がわずかに身じろぐのが目に映り、やや足早に太公望は歩み寄った。
 寝台の脇に立ち、横たわる人の顔を覗き込めば、閉ざされた瞼が震えるように動いていて。
 その様子に、程無く目覚めるだろうと、太公望は小さく安堵の息をついた。
 そして、そのままじっと見守っていると。
「───ん…」
 かすかな声とともに、ゆっくりと瞼が開く。
 閉ざされていた瞳が現れ出るのに、太公望は胸の一番奥がしめつけられるように痛むのを覚えた。
 そんなことも知らず、まばゆげにまばたきを繰り返してこちらを見たのは。
 ───言いあらわすことができないほど甘やかな色の、綺麗な瞳。
 息が止まりそうになるのを小さく深呼吸することでこらえ、太公望はそっと口を開いて、目覚めた人の名を口にする。
「──楊ゼン?」
 何度も何度も、数えきれぬほど呼んだことのある名前なのに、まるで初めて呼ぶような気がするのは何故なのか。
 そして彼は、状況が把握できぬと言いたげな、不思議そうな顔で太公望を見返す。
「太公望師叔……?」
 ややかすれた低い声に。
 太公望は、ほんの少しだけ、深い色の瞳を揺らし。
 それから、口元にかすかな笑みを刻んだ。









....To be continued









前回の更新から1年近くが過ぎました、「夢見る頃を過ぎても」。
いい加減、皆様が忘れ去って下さらないかな〜と儚い期待を抱いていたのですが、相変わらず、あちらこちらで「ずっと待ってます!!」という力強いファンコールをいただいてしまい、とうとう更新の至りとなりました。

正直に言うとこういうメロドラマ系は苦手で、ここからラストまで書くのもかなり大変だとは思うんですよ。
けれど、皆様の「待ってます」コールに見ざる言わざる聞かざるを続けるよりは、いっそ書き上げてしまう方が楽かも、と思いまして・・・・。
随分と長い間サボってましたけれど、これからは、またちょびちょび更新していこうと思っております。

というわけで、本当にヘボヘボもいいところですが、第三章、ようやく開幕の運びとなりました。
完結までにはまだ時間がかかると思いますが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ m(_ _)m



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