Chanson de l'adieu 5







静かなノックが響き、どうぞと返事をすると、屋敷の執事がボトルワインとグラスの載ったワゴンを押して、入ってきた。

「旦那様が、こちらをお持ちせよとの御指示でしたので・・・・よろしいでしょうか?」
「はい。ありがたくいただきます」

セレストが微笑んで答えると、執事はサイドテーブルの脇までワゴンを運び、そして、改めてこちらを見つめる。

「アーヴィング様、不躾ではありますが、お礼を申し上げさせて下さい」
「え?」

思いがけない言葉に戸惑ったセレストに、執事は謹厳そうな顔に控えめな微笑をにじませた。

「我々使用人どもは、今日、初めて旦那様の心からの笑顔を拝見することができたのです。あなたがおいでになられて、初めて・・・・・」

初老の執事の深い感慨の滲んだ声に、セレストは目をみはる。
そんなセレストを見上げ、彼は静かに語りだした。

「私は、ルーキウス家の方が合衆国においでになってからお屋敷に入り、リグナム様の御命令で、この四年間は旦那様にお仕えして参りました。それゆえに、私はドイツにいらした頃の旦那様を存じ上げません。私が存じている旦那様は、他の方の前では明るく振舞っておいでながら、一人になられるといつも気鬱そうというか、ひどく辛そうなお顔をされておられる方でした」
「────」
「私は一介の使用人ですから、旦那様が何をお考えになっておられるのかを知る立場にはありません。ですが、日々お仕えしているうちに、旦那様が、この国においでのどなたかの消息を探しておられることは分かりました。そして、その方を探し出すのが、とても難しいことだというも・・・・」

落ち着いた声で語られる言葉に、セレストは返す言葉を見つけられない。
カナンが必死と言ってもいい懸命さで、自分を探し続けていたことは、再会した家族からも散々に聞かされていた。が、ずっと近くに居た相手からの言葉は、また違った重みがある。

「ですから、私は旦那様の本当の笑顔を拝見したことが一度もなかったのです。お小さい頃の旦那様は、明るくて元気な良く笑う方だったと聞かされても、この想像力に乏しい身では今一つ思い浮かべることが出来ず・・・・。
ですが、ようやく今日、分かったような気がしたのです」

実直そうな初老の執事の目は、温かな色でセレストを見上げた。

「旦那様の、あのような笑顔を拝見したのは初めてでした。本当に嬉しそうでいらっしゃって、まるで輝くような・・・・。ですから、アーヴィング様、我々使用人一同からも、あなた様にお礼を申し上げたいのです」
「そんな・・・・」
「旦那様は御心の内を軽々しく口にされる方ではありませんから、我々は今日までアーヴィング様のお名前も存じ上げませんでしたが、それとこれとは別に、あなた様の存在は私どもの間でも非常に大きかった。
使用人の身で過ぎたこととは思いますが、どうぞこれからは、できる限り旦那様のお傍にあっていただきたいのです。都合のよろしい時にだけでも来ていただければ、どれほど旦那様が喜ばれるか・・・・。
非礼極まりない言い分ではありますが、毎月毎月、どこからか報告書が届けられるたびに旦那様は、ひどく辛い、苦しくてならないようなお顔をされておられました。あのようなお姿は、もう拝見したくないのです」

一心に主人を思い、仕えてきた人間の言葉の重さに戸惑いながらも、それが自分の内に静かに染みこんでくるのを感じて。
セレストは一瞬、目を伏せ、そして真っ直ぐに執事を見つめた。

「コンラードさん。あなたのお言葉は、私のような人間相手には過ぎたものです。が、そう言っていただけるのは嬉しいと思いますし、できる限りお応えしたいとも思います。
幸い、カナン様には過去の不義理を許していただけましたから、カナン様が私を必要として下さる限り、私は、あの方のお傍に在り続けるつもりです」
「それでは・・・・」
「まだ詳しいことが決まったわけではありませんが、今後はこちらのお屋敷で御厄介になることになるかと・・・・」

穏やかに微笑して答えたセレストに、執事の顔も明るくなる。

「それは実に喜ばしい・・・・旦那様にお仕えする我々にとって、何よりも嬉しいことです、アーヴィング様」
「いいえ・・・・私の方こそ、皆さんにまでいらぬ御心配をおかけして、申し訳ありませんでした。そして、面識もない私をそこまで案じて下さったことに、お礼を申し上げます」
「私どもの思いは、使用人として当然のことです。旦那様の大切に思われている方をないがしろにするのは、決して許されないことですから。ましてや旦那様は、あのようにお若いのに我々の家族のことまで細々と気遣って下さる、とてもお優しい方です」

どうして敬愛せずにいられようか、と初老の執事は語り、そして改めてセレストを見上げた。

「差し出がましいことをあれこれ申し上げましたが、どうぞこれからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。コンラードさん、あなたのような方がカナン様のお傍にいて下さったことに、私も心から感謝します」
「もったいないお言葉です」

静かに言葉を交わし、執事は丁寧に一礼して。

「それではお邪魔して申し訳ありませんでした。私はこれで失礼致します」
「いえ、御苦労様でした」

客間を出てゆく執事を見送り、昔もこんな風に、屋敷の使用人と挨拶を交わしていた、とセレストは懐かしく思い出す。

かつてのルーキウス家の屋敷は広く、使用人も何十人と働いており、セレストの母親もそのうちの一人だった。
だが、大勢の使用人たちにかしずかれていながら、当主夫妻も、その子息や令嬢も驚くほどに気さくで心優しく、使用人たちのことを一人一人常に気遣ってくれていた。
末っ子のカナンも、両親兄姉に溺愛されていながら、決して奢り高ぶることはなくて。
むしろ、セレストを始めとする周囲の遊び仲間が『お屋敷のお坊ちゃま』扱いをすると、ひどく機嫌を損ねて怒ったものだった。

「お菓子でも何でも、皆一緒でないと気が済まれなかったものな・・・・」

カナンのために用意されたおやつなのだから、気にせずに独り占めすればいいものを、遊び仲間全員と、更にその弟妹への土産用の分まで同じものを準備させて。
そんなお坊ちゃまに苦笑しながらも、屋敷の使用人たちは快く大量のお菓子を作ってくれたのだ。

確かに、幼かった頃のカナンは世間知らずで、苦労しらずの子供だった。
その恵まれた環境や、そこで育まれた真っ直ぐさを妬み、憎む者も少なくなかったように思う。
だが、周囲に居る者達は皆、眩しい光そのもののようなカナンの気質を愛し、守りたいと願っていて、セレストも、間違いなくそのうちの一人だった。

「毎日大変だったよな、あの頃は」

外見はひどく可愛らしいのに、元気でやんちゃで無鉄砲で、驚くほど手の込んだ悪戯ばかり企んで。
手がかかって仕方がなかったし、毎日のように無茶を叱り、小言を言っていたような気がする。
だが、それでもカナンは無邪気にこちらを慕ってくれて、自分もまた、年の離れた弟のようにカナンが可愛くて、大切だった。
あの頃の感情と、今カナンに対して抱いている感情は確かに別のものだが、大切だという思いは何も変わっていない。

ただ愛しくて。
あの笑顔を守りたくて。

それだけを思って、ここまで来たような気がするのだ。

「────」

小さく微笑し、セレストは執事が届けてくれたワインを手に取る。
モーゼルワインの逸品に添えられたグラスは二つ。
ということは、そのうちにカナンもやって来るのだろう。
そう思い、セレストはソファーに腰を下ろす。

戦争というとてつもない暴力に参加し、痛めつけられた心はおそらく、まだ癒えてはいない。
癒えることなどないのかもしれないと思う。
自分が引いた小銃の引き金の重さや、視界を染めた血の色、鼻をつく死臭、どれほど忘れたくとも、それらの全てを忘れられるわけがない。
だが、それでも生きたいと思ったし、帰りたいと願った。
そして今、ずっと待ち続けていてくれた大切な人のもとへと帰り着いて。
その人のことを考えながら、静かに時間を過ごしている。
許されざるべきことなのかもしれない。が、それでも心から幸せだと思った。















「すまない、遅くなった」
「いいえ」

約束をしていたわけでもないのに、部屋に一歩入るなり、カナンはそう言った。

「どうしても今日中に目を通して、サインしなければいけない書類があったのを思い出してしまったんだ。おかげで遅くなった」
「思い出してしまった、って・・・・。思い出さなければ、まずいでしょう」
「それでも思い出したくなかった。ようやくお前と会えて、一秒だって時間が惜しいのに」

いかにも不満げに、さらりと言われてセレストは返答に困る。
その間に、さっさとカナンは歩み寄り、ワゴンのワインを手に取って銘柄を確かめた。

「うん、これだ。ちゃんと持ってきてくれたな」
「開けましょうか?」
「大丈夫だ。子供じゃないんだから、自分で出来る」
「・・・・そういえば昔、コルク栓を抜くのをやりたがっては失敗なさって、癇癪を起こされてましたよね」
「思い出すな、そんなこと」
「カナン様が先におっしゃったんですよ」
「様、じゃないだろう?」

横目でちらりと見つつ、だが、それ以上は咎めることなくカナンは器用な手つきでコルク栓を抜き、二つのグラスにワインを注いだ。
そして、照明に透かすようにしてその色合を確かめてから、グラスの一つをセレストに渡す。

「せっかくのシャルツホフベルガーなんだから、トロッケンベーレンアウスレーゼ(最上級の貴腐ワイン)にしようかと思ったんだが、お前には甘すぎるだろうと思って。シュペトレーゼ(やや辛口)にしておいた」
「十分に贅沢ですよ、それでも」

苦笑しながらもグラスを受け取り、セレストはその淡い緑を帯びた、照りのある色合いを確かめる。

「いい色ですね。さすがだ」
「うん。戦前に比べると、まだ全然生産量が少ないからな。貴重品だぞ」

澄んだ音を立ててグラスが合わされ、二人は一口、ワインを含む。
そのままシャルツホフベルガーの極上の香りと味わいの余韻に浸るように、しばらくの間、沈黙が落ちた。

「・・・・不思議な感じですね」
「うん?」
「大人になったあなたと、こんな風にワインを飲み交わすなんて・・・・・。あの頃には想像もしたことがありませんでした」
「そうか?」

しみじみと呟いたセレストに、くすりと笑ってカナンは深い緑色のボトルに手を伸ばし、二杯目を注ぐ。

「僕には憧れだったぞ。早く大人になって、お前の前に対等に立ちたかった」
「ほんのお小さい頃から、子供扱いされるのが大嫌いでしたよね、あなたは」
「うん。特にお前にされるのはな。大嫌いだった」
「ええ。おかげで随分、私も困らされました」
「今となってはいい思い出だろう?」

笑顔と共にしれっと応じて、カナンはグラスをサイドテーブルに置き、セレストとの距離を詰める。
それを受けて、セレストもグラスを置いた。

「面倒を見なければならない子供ではなくて、一人の人間としてお前に認められるのが、ずっと僕の夢で目標だった。今、そこまで来られたのか? 僕は?」

そう問いかけるカナンの表情からは笑みが消えていて。
怖いほどに真剣になった青い瞳を見つめ、セレストはそっと手を伸ばす。

「四年前、収容所まで会いに来て下さった時から、私の中のあなたは子供ではなくなりましたよ」
「本当に?」
「ええ。あんなにまでして私を探して下さったあなたを、どうして子供だと思えるとおっしゃるんです?」

ゆっくりと細い身体を引き寄せ、すっきりとしたラインを描く頬に手を触れた。

「それだけでなくて、もしかしたら、私はずっと間違っていたのかもしれません。あなたは確かに私よりずっと年下ですが、精神的には私と変わらないくらいに昔から大人だったのかもしれないと、この四年間、ずっと考えていました」
「・・・・気付くのが遅いんだ、と言いたいところだけど、七歳の年の差はどうしようもないからな」

許してやる、と言いながらカナンはセレストの肩に両腕を回し、抱きしめる。

「じゃあ、僕は本当にお前の中ではもう、保護対象の子供じゃないんだな」
「今でも守りたいとは思っていますけどね。対等以上の何より大切な人として、です」
「・・・・・嬉しいな」

肩口に顔を埋めるようにして呟いた言葉は、かすかに震えているようだった。
込み上げた言葉にしがたい愛しさに、セレストも抱きしめる腕の力を強くする。

「あなたを愛してます。保護者でも何でもない、一人の男として・・・・」

飾りも何もない真っ直ぐな告白に、カナンのセレストの背に回した腕が一瞬、強くなり。
そして少しだけ力を緩めて、カナンは顔を上げた。

「僕もだ」

かすかに涙の滲んだ瞳で微笑んで、告げる。

「愛してる、セレスト・・・・」

言葉の余韻も消え去らないうちに、唇が重なり。
すぐに口接けは深いものに変わる。
奪い合うとも与え合うともつかない激しさで、触れ合ったところから生まれる甘い熱を求め、逃さぬように絡み合う。
そうしながら体勢を入れ替えて、セレストがカナンを押し倒す形で二人の身体がベッドに沈む。
何度も角度を変えながらキスを繰り返し、呼吸が追いつけずに唇が離れた後も、セレストは飽きもせずにカナンの額や目元、頬に口接けを落とした。

「・・・・っ・・」

跡が残らない程度の強さで首筋に口接け、その上の耳朶に軽く歯を立てると、びくりとカナンの躰が震える。
だが、それは決して拒絶ではなく、セレストの肩に添えられていたカナンの手も、セレストのシャツの首元へと移動して、拙い動きでボタンを外し始めた。

「カナン様・・・・」
「──様、じゃないだろう・・・・?」
「・・・・すみません」

慣れないものは仕方がない。
微苦笑まじりに謝って、ほんのりと色づいた唇に軽いキスを落とす。
と、もっととねだるようにカナンの手が、セレストの首筋を引き寄せて。
求められるままに今度は先程よりもゆっくりと、優しく口接ける。
ひどく甘く感じる口腔を隅々まで触れ、過敏な上顎の裏を舌先で丁寧に愛撫しながら、そっと胸元に手を滑らせると、たまりかねたように細い躰が跳ねた。

「──っあ・・・ん・・・っ」

熱を帯びた素肌の上を指先が滑るたびに、切れ切れの甘い声が零れる。
きつく目を閉じた切なげなカナンの表情をセレストは微笑して見つめ、胸元に唇を落とす。
最高級のビスクドールを思わせるような白い肌は、すべやかでさらさらと手触りがよく、その心地好さに、快楽を知ったばかりの若者のようにセレストは躰が熱くなるのを覚えた。
余すところなく唇と指で触れ、薄紅の花びらのような所有印を幾つも刻む。

「あ・・・っ・・、や・・・ぁっ・・・セ・・レスト・・・!」

どうしようもないほどにカナンが愛しくて、想いに流されるまま、甘く色づいた胸元の果実を、片方を指の腹でやわらかく転がし、爪弾くように愛撫しながら、もう片方を優しく舌先でつつき、口接けて軽く歯を立てる。
左右異なったやり方で執拗に施される愛戯に、カナンの嬌声が甘く引きつり、その声を心地好く聞きながら、セレストはゆっくりとすべやかな脇腹へと手を滑らせ、細く浮き出た腰骨の上を通り過ぎて、膝までを優しく撫で下ろした。
熱くなった肌は何でもないような場所までも過敏になっているようで、どこに触れてもカナンは躰をびくびくと震わせる。
それを楽しむように、とりわけ感じやすい脇腹や腰骨の辺りに指を這わせると、たまりかねたカナンの手が、セレストの髪を思い切り引っ張った。

「い・・・い加減にしろ・・・っ!」
「痛いですってば、カナン様」
「様じゃないっ!!」

癇癪を起こしたように、カナンが怒鳴る。
ようやく髪から手を離させて見ると、こちらを睨み上げている青い瞳は、涙が零れ落ちそうなほどに潤んでいて。
上気した頬を相まって、ひどく可愛らしく、思わずセレストは微笑を零した。

「何が可笑しい・・・っ」
「可笑しいのではなくて・・・・」

可愛いと言ったら怒るに決まっている相手に、どう答えたものかと思いながら、宥めるようにセレストはカナンの額に口接けを落とす。
そのまま優しいキスを幾つも降らせて、唇にも軽く口接けてから、カナンを見つめた。

「すみません、一方的過ぎましたか」
「・・・・そんなことはない、とは言わないけどな」

拗ねたように言いながらも、カナンの言葉も歯切れが悪い。
だが、そのどこか決まり悪げな、言葉を探しているようにあさっての方向を彷徨った瞳に、セレストはカナンの訴えたいことを悟った。

「──では、そろそろ先へ進んでもいいですか、カナン?」

込み上げる愛しさに微笑しながら、耳元でそう囁くと。
ただでさえ上気していたカナンの頬が、かっと赤くなる。
そして、悔しげにセレストを睨み上げた。

「いちいち聞かなきゃ、お前はやれないのか!?」
「そういうわけじゃないんですが・・・・自分本位で進めていいことではないでしょう?」
「それはそうかもしれないが・・・・」

まだ反論しようとしたカナンを、セレストはキスをすることで黙らせる。
何度も繰り返し角度を変えて、やわらかく絡め取るような口接けを与えながら、半端になっていたカナンの服を完全に取り払ってゆく。
カナンもそれに抗うことはなく、むしろ協力するようにわずかに躰を浮かせて、セレストに応えた。

「──っ・・・は・・・」

長いキスを終えて、乱れた呼吸を持て余すようにカナンが大きく息をつく。
シーツに深く躰を沈めた、そのしどけない姿を、セレストは込み上げる熱を感じながら見つめた。
サイドランプの温かな色合いの光に照らし出された肌は、思わず触れて口接けたくなるほどにすべやかで、女性のようなやわらかなふくらみがない代わりに、清潔感とも形容すべき清冽な印象と、香り高い白花のような艶を兼ね備えていて。
ただ、綺麗だと感じる。

「そんなに・・・見るな・・・・」

見つめられる視線に耐えかねたのか、顔をそむけてカナンが小さく身じろぎする。
だが、それさえも無言のうちに誘われているように感じて、セレストはそんな自分に苦笑しながら、艶やかなカナンの金の髪をそっと指で梳く。

「お綺麗ですよ」
「綺麗って・・・・男に使う形容詞じゃないぞ」
「それでも、綺麗だとしか言えませんから」
「そんなの・・・・ああ、でも」

何か思いついたのか、セレストを見上げたカナンが、シーツに投げ出していた腕を持ち上げ、セレストの頬に触れ、首筋から肩へとゆっくりと下ろしてゆき。
白い花が開くように微笑んだ。

「お前も・・・・綺麗だ」
「私がですか?」
「うん。身のこなしとか、筋肉の付き方とか・・・・。そういえば、思ったよりやつれてないな」
「腕なんかは一回り、細くなりましたけどね」

一瞬前の艶をはいた仕草はどこへやら、ぺたぺたと肩やら胸やらを触りだしたカナンに苦笑しながらも、セレストは答える。

「気力もですけど、体力が落ちたら終わりですから。収容所の食事は粗食もいいところでしたし、労働もきつかったですけど、それでもできる限り体力を落とさない努力はしてましたよ」
「・・・・そうなのか」
「ええ」

言いながら、セレストはカナンのこめかみにキスを落とした。

「もう一度あなたに会いたかったし、許されるなら、あなたを抱きしめたかった。その為なら、どんな努力でもしようと思ってました」
「・・・・・こういうこともしたかったのか?」
「それはまあ、男ですから」

相手を保護すべき相手としてではなく、愛しいと思ってしまったら、その辺りは仕方がない。
苦笑して答えたセレストに、カナンも小さく笑う。
そして、少年の頃と変わらず細い腕をセレストに伸ばし、引き寄せた。

「だったら、思う存分に好きにすればいい。僕は今、ここにいるんだから」
「カナン様」
「カナン、だろう?」
「・・・・はい」

当分慣れることはできなさそうだなとカナンは笑って、引き寄せたセレストの唇に口接ける。
そのまま、再び二人は甘い熱に溺れた。



























to be continued...








どこまででも長くなるので、更にファイル分割〜。
ラブ甘になってしまったのは、ショパンから変えてBGMにしていたBON JOVIのニューベストアルバムが悪かったのでしょうか。
しかし、何故にうちのカナン様は大人しくマグロになっていてくれないのでしょう?(T_T)

ちょろっと解説なのですが、シャルツホフベルガーというのは、ドイツ・モーゼル地方でも最上のブドウ畑の名前であり、所有者のエゴン・ミュラー家が生産している、世界でも最高の名品に数えられる白ワインの銘柄でもあります。
ドイツワインや、その等級etc.を知りたい人はネット検索へGO。
サントリーとかの酒造会社が作っているお酒の紹介ページや、プロのソムリエが作っているページが偏ってなくてお勧めです。
検索キーワードは、「シャルツホフベルガー」または「エゴン・ミュラー」で。
本当はドイツ最高峰の銘品シュタインベルガーにしようか迷ったんですけどね・・・。なんとなくモーゼルに。





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