※R18作品のため、18歳未満の方の閲覧は御遠慮下さい。

LOVE IS WAR 2 01

 夜更けのベッドの上で携帯電話を弄りながら静雄を待っていた臨也は、寝室のドアが開かれる音に顔を上げた。
 それとほぼ同時に、静雄の低い声がかけられて。
「……何着てんだ、お前」
「えー。シズちゃんのリクエストじゃん。彼シャツならぬ彼パジャマ」
 小首をかしげ、片目を閉じて答えれば、静雄は呆れたように眉をしかめる。そんな静雄に、臨也は袖口から半分覗いた右手をひらひらと振って見せた。
「萌える?」
「……つーか、寒くないのかよ」
「平気」
 これから肌を晒していやらしい大人の遊びをするのだから、エアコンの温度は勿論十分に上げてある。
 加えて、静雄のパジャマは温かなフランネル生地だったから、何も来ていない下半身を毛布に突っ込んでいれば、静雄が風呂から上がってくるのを待つ間に体が冷えるということもなかった。
 だが、思ったよりも静雄の反応が良くない気がして、臨也は内心、首をかしげる。
 すると、ベッドに歩み寄ってきた静雄が溜息交じりの声で呟いた。
「クッソ……やっぱり口に出して言うんじゃなかったな」
 苦々しいというほどではない。が、その声は決して嬉しそうではなく。
 折角、聞いたばかりの萌えシチュエーションを演出してやったにもかかわらず、そんな風に言う静雄に、臨也はむっと唇をとがらせる。
「なんでだよ。何が不満?」
「分かれよ、お前も男なら。意識してやられると、萌えっつーのか?、それが半減すんだよ」
 何の気もなかったから可愛かったんだよな、などと近い過去を懐かしむかのように言われて、今度は臨也の方が一気に機嫌が斜めに傾くのを感じた。
「──あ、そう」
 だったらいいよ脱ぐから、と臨也はパジャマの第一ボタンに指をかける。
 すると、素早く手首を掴まれた。
「何?」
「だから、半減するっつっただけだっての。萌えねーとは言ってないだろ。あと勝手に脱ぐな」
「……シズちゃんって本当に横暴」
 心底から呆れを覚えて、臨也は溜息をつく。
 彼パジャマを着てベッドで待っていた自分が馬鹿だという自覚はあるが、目の前の男はそれ以上に馬鹿だった。
 だが、その馬鹿さが自分に夢中になっているがためのものだと思えば、許せてしまう気がして更に嫌になる。
「俺さあ、シズちゃんと付き合い始めてから、ものすごく馬鹿になった気がする。指輪を交換してからは特に」
「安心しろ。俺もだ」
「……それって微妙に俺に失礼じゃない?」
「お前ほどじゃねえよ」
 言いながら、静雄は掴んだままだった臨也の手首を持ち上げ、左手の薬指のリングにキスを一つ落とす。
 そのささやかな、けれど愛情と独占欲を示す仕草に、臨也はほぼフラットに戻りかけていた機嫌が完全に上昇に転じるのを感じた。
 意図してやっているわけではないのだろうが、結論から言うと、静雄は臨也をなだめるのがとても上手い。無論、苛立たせることも同じくらいに上手いのだが。
「ホント、シズちゃんってずるい」
「何がだ」
「色々と」
 溜息をついて呟けば、即座に問い返される。
 それには曖昧に応じて、臨也は湯上がりパジャマ姿の静雄をつくづくと眺めた。
 この三週間もの間、冷戦もどきをずっと続けていたために、こういう目で静雄を見つめるのは久しぶりのことである。もの欲しそうにしていると思われるのが嫌で、いつでもさりげなく目線を逸らしていたのだ。
 そして、改めて見つめてみれば、惚れ抜いている欲目を差し引いても、静雄はとても格好良かった。
 絶世の美青年と形容される弟によく似通った、だが、数倍精悍な顔立ちは美形としか言いようがなかったし、細身に見える長身も綺麗に筋肉が付いていて、脱げば十分に逞しい。
 股下九十八cmなんて日本人のサイズじゃないよね、と思いながらも、顔に落ちかかる前髪をそっと指先で払ってやる。すると形の良い額があらわになり、臨也はそこに一つキスを落とした。
「ねえ、シズちゃん」
「何だよ」
 臨也の視線を無言で受け止め、何をするのかと出方を伺っていたらしい静雄は、臨也が名を呼べば直ぐに応じる。
 ひっくり返せば、静雄もその間、臨也をじっと見つめていたのだが、そのことは敢えて考えないようにしつつ、臨也は屈託なく微笑んでみせた。
「今度の休み、出かけようよ。デートしよ?」
「いいけどよ……どこか行きたいとこあるのか?」
「うん。服買いに行きたい」
 唐突な誘いにもうなずいた静雄だったが、行き先を聞くと微妙に顔をしかめた。
「お前……また俺を着せ替え人形にする気だろ」
「勿論」
 にっこり笑って肯定してやると、静雄の眉間のしわが深くなる。
「俺は服なんざ、着られりゃいいんだよ」
「それじゃ俺がつまらないの」
 せっかくモデル並みの外見をした旦那を捕まえたのである。着飾らせて連れ歩きたいと思うのは、自然な欲求ではないだろうか。
 普段のバーテン服も似合っているが、臨也の目で見ると、静雄のらしさが一番よく出て格好よく見えるのはカジュアルな服装だ。
 特に、素晴らしく長く、細くとも適度に逞しい脚にジーパンを履かせたら、右に出るものはいない。芸能人だったならば、毎年必ずベストジーニストを受賞していること間違いなしだった。
 足元にすこしゴツめの革靴かアンクルブーツ、上半身はシャツでもカットソーでもいいが、必ず革のブルゾンを羽織らせたい。
 だが、欧米人並のスタイルにはトラッドも抜群に似合うから、春らしい少し軽いジャケットや薄めのダウンジャケットも着せてみたい。或いは、ワイルドに革パンツにライダーズジャケットでもいい。
 想像し始めたら止まらず、臨也は、妄想魔の狩沢の気持ちが少しだけ分かるような気がしないでもないと思いながら、静雄に微笑みかけた。
「いいじゃん。何着ても似合うんだし」
「お前の買い物に付き合ってると疲れるんだっつーの」
「お昼と三時のおやつも奢ってあげるから。ハンバーグとパフェ。それともクリームコロッケとケーキの方がいい?」
「……俺が何と言っても、諦める気全然ねえだろ」
「当然」
 くすりと笑って、臨也は今度は静雄の唇に軽く口接けた。
「ね、行こうよ。代わりに、シズちゃんも俺の服を選んでくれていいから」
「お前の服、なぁ」
 珍しく黙ってるから何を考えてるのかと思えばよ、と小さく溜息をつき、静雄は臨也の首筋にそっと口接けを落とす。
 首のラインをやわらかく唇でたどられて、臨也はくすぐったくも心地よい感覚に小さく身をよじった。
「……明るい色も、似合うんじゃねえの」
「俺?」
「おう。黒とか赤じゃなくて、もっとやわらかい色っつーか、綺麗な色。お前なら着れるだろ」
 意外な言葉に、臨也は目をまばたかせて静雄を見上げる。
 まさか自分に対して、そんなカラーの提案をしてくるとは思いもしなかったのだ。
「やわらかくて綺麗、って……春カラー?」
「あんまりふわふわした色はお前のイメージじゃねぇけどな。ある程度はっきりした色の方が合うとは思うけどよ」
 ちょっと見てみてえ、という声と共に背中を優しく撫で下ろされる。
「仕事の時は黒でいいんだよ。それがお前のイメージだし、お前もカラスみたいに見せたいんだろうし。でも、うちの中に居ると、ちょっと違うんだよな」
「……黒、似合わない?」
「いや。それはそれでお前らしいし、好きだけどな。時々、天気のいい日とかに日向(ひなた)でサクラ構ってるお前見ると、もっと違う色でもいいんじゃねえかと思う時がある」
「────」
 それは、と臨也は思った。
 おそらく、この部屋で静雄とサクラと過ごしているときには、普段は隠している心の中のやわらかな部分があらわになってしまっているからだろう。
 当然だ。愛するものに囲まれている穏やかな時間にまで今更神経を尖らせるほど、臨也も頑なではない。
 そして、そんな時の臨也のイメージは、静雄の目には黒とは映らないのだろう。何色かは分からない。だが、自己主張はあっても綺麗な色と映るのだ。
「……うん。シズちゃんがそういうのなら、黒以外を着てみてもいいよ。でも、休みの日だけね」
「おう」
 それでいい、と静雄はうなずき、臨也の唇に唇を重ねる。
 ついばむように優しいキスが自然に深いものに変わるのを、臨也は静雄の首筋に両腕を回しながら受け止めた。
 ただのキスなのに、こんなにも気持ち良くて満たされる。それは、相手が静雄だからだということはとうに知っている。
 どうしようもなく甘く、鮮烈で。
 唇と舌でたっぷりと愛撫し合ううちに、身体が芯からとろとろと蕩けてゆくような錯覚に襲われて、臨也は静雄の首筋に回した手にぎゅっと力を込めてすがりついた。
 こんなキスは実に三週間ぶりのことだ。よくも我慢していられたなと、己の強情ぶりに自分で呆れながら、もっととせがんで舌を絡めれば、望んだだけ甘いキスが注がれる。
 舌先を甘く噛まれ、敏感な口蓋を執拗に舐められて、とうとう息が続かなくなると、静雄はそれを察したのだろう。ゆっくりと唇が離れてゆく。が、それを惜しむ間もなく、臨也の身体はやわらかくベッドの上に押し倒されていた。
 自分の息が上がっているのを意識しながら見上げると、あからさまな情欲を湛えた目で静雄は臨也を見下ろしており。
 猛獣のような、と形容するには愛情深過ぎるその目つきに思わず微笑みながら、全部食べていいよ、と臨也は両腕を差し伸べ、静雄の背を緩く抱き締めた。
「ねえ、何考えてるの?」
「分かり切ったこと聞くんじゃねえよ」
 間近にある目を見上げながら臨也が悪戯に問えば、静雄は、くっと喉だけで笑って臨也の首筋に顔を埋める。
 唇でやわらかく臨也の耳殻をたどり、その下の薄い皮膚に唇を這わせながら、途中にある頸動脈の上で軽く歯を立てた。
「……っ、あ……、痛く、したらヤだよ……」
 急所に痛みの一歩手前のじん…と痺れるような刺激を与えられて、思わず臨也は細くうめく。
 といっても、これまでSEXで静雄に傷付けられたことは一度もない。それどころか、いつも宝物のように大切に扱われて、快楽にとろとろに溶かされている。
 だから、今も恐怖を感じているわけではなく、牽制の言葉も、静雄がいつもより興奮しているのを感じ取って反射的に出てきただけのものだ。
 静雄も、それを承知しているのだろう。俺がお前を傷つけたことがあるかよと怒り出すこともなく、臨也の耳元で低く笑った。
「しねえよ。お前は俺のもんだろ?」
「勿論そうだけど……」
「だったら、大事にするに決まってるだろうが」
 そう言われたものの、静雄の低められた声はどこか不穏で、臨也を安心させない。
 その直感が正しかったことは、続けられた言葉で即座に判明した。
「全身、隅から隅まで撫でて、舐めて、かじって、とろとろに熔かして、お前がもうやだ気が狂うって泣くまで大事に可愛がってやるよ」
「──っ…!」
 獰猛な言葉を耳に直接吹き込まれて、ぞくりと臨也の背筋が震える。同時に、身体の奥がじわりと甘く濡れ始めるのを感じて、臨也は更に震えた。
「エ、ロすぎ……っ」
「三週間、お預け食らわされたんだぜ。男ならこんなもんだろ」
 抗議しても、静雄は涼しい顔で臨也の唇をぺろりと舐める。
 丸ごと骨まで食っちまいてえと言われているような気がして、臨也は困惑半分、喜び半分の思いで静雄を見上げた。
「自分で抜かなかったの?」
「何回かはな。でも、お前を抱くのとは比べ物になんねえっつーか、全然別物だろ。自分で抜いたって、一瞬すっきりしたような気がするだけだ」
「まあ……それは確かに」
 臨也も、静雄とのSEXを知ってからは自分では殆ど弄らなくなった。今回のように何らかの理由で長期間触れ合うことが叶わず、欲を持て余した時だけ触れることもあるが、その後の物足りなさや虚しさが大きいため、最近では我慢してやり過ごすことの方が多い。
 だがそれは、我慢していれば幾らもしないうちに必ず静雄と触れ合うことができると信じているからだと、今更ながらのように己の心理に気付いて、臨也は小さく眉をしかめた。
 すると、静雄が目ざとくそれに気付いて、しかめられた眉間を親指の腹でそっと撫でる。
「何だよ。気に入らなかったか?」
「あ、ううん。違う。別のこと。全く関係ないことじゃないけど……」
「何だ?」
「だから、俺もシズちゃんも、具合悪くてできない時も、その期間をやり過ごせばまたシズちゃんは俺と、俺はシズちゃんとSEXできるって信じてるんだなーと思って」
「? それのどこが悪いんだよ」
 指輪まで交換しておいて、と言いながら静雄は臨也の左手を取り上げ、薬指の関節に軽く歯を立て、それから指と指の間をちろちろと舌先で舐める。
 神経の集まる手は全体が性感帯だ。小さな刺激にも臨也は体をかすかに震わせながら、静雄から目を逸らした。
「悪いわけじゃないけど……なんか君に依存してるみたいで」
「別にいいんじゃねえの? 俺もお前も、今はSEXする相手はお互いしかいないだろ。その相手とヤることを期待しなくてどうすんだよ。二十代でセックスレスなんて、俺はまっぴらだぜ」
「それはそうだけど……」
「いいから、もう黙れって。お前、ずっと喋りっぱなしだぞ」
 好きなのだからSEXがしたくて当然、期待するのも当然だと、あっさりまとめて静雄は臨也がそれ以上、無駄口を叩けないように唇を唇で塞ぐ。
 一際長く甘い、理性を根こそぎ蕩けさせるようなキスを終える頃には、臨也も何一つ反論する気は失せていた。
 足りなくなった酸素を補給しようと臨也が呼吸を喘がせているのに、指の長い大きな手が胸元に触れてきて、びくりと身体がすくむ。
 フランネルの生地は少しばかり厚いために、触られている感じはあっても感覚としては遠い。その曖昧さを静雄も理解しているのか、五本の指の指先で胸全体をゆっくりと優しくなぞってくる。
「……っ、ふ…」
 そのもどかしさに臨也が小さく上半身をよじると、初めて指先が、かり…と小さな尖りのある場所を引っ掻いた。
「あ……っ」
 初めての鋭い刺激に、びくりと反射的に身体が震える。そのまま繰り返し指先を往復させるように触れられて、臨也は目を閉じたまま、甘く疼くような感覚を受け止めた。
「っ、あ……、や…っ…」
「何が嫌だ? 気持ちいいだろ?」
 笑みを含んだ静雄の低い声が降ってくる。そこに隠されている戯れを理解して、臨也はもどかしい快感に浅く喘ぎながら目を開けて、静雄を見上げた。
「だ、から……、もどかしいん…だってば……」
 少しだけ甘えを滲ませた声で訴える。
「もう、脱がして……」
 そう求めれば、静雄の目に浮かぶ欲の色が深くなり、臨也もまた、その目の色にぞくりと身体の奥が濡れるのを感じた。
 互いに分かっていて、煽り煽られる。何度も身体を重ねた相愛の相手だからこそできる戯れは、この上なく淫らで愉しいものだ。
 だから、静雄は普段の彼からは想像もつかないような淫靡な語彙を駆使するし、臨也もまた、他人に対しては絶対に売らない媚と甘えをふんだんに振り撒く。
 身体だけではなくまなざしでも言葉でも、それぞれの手管を出し尽くしてSEXを堪能する。それが二人で見つけた、二人にとっての最上の愛し合い方だった。
「ね、直接触って……」
「手前で着たくせに」
「だって、シズちゃんが喜ぶと…、っ、ん……思ったし……」
「まあ、確かに好きだけどな」
 言葉を交わす間も、静雄の指先は動き続けている。完全に立ち上がって硬くしこった尖りを布越しにあくまでもやわらかく、くりくりと弄られて、臨也はじわじわとこみ上げる疼きに耐えかね、小さく腰を揺らした。
「や…っ…、ね、もう……」
「着たままじゃ駄目なのか?」
「駄目……っていうか、やだ……」
 直接触られた方がずっと気持ちいいのは間違いのない事実だったから、臨也は本心からねだる。
「ね、脱がしてくれないんなら、自分で脱ぐ、よ……?」
 勝手に脱ぐなと言ったくせに、と暗に責めれば、静雄は面白げに笑んだ。
 そして、フランネル生地の上から指の腹で小さな尖りをきゅっと軽く押し潰す。
「ひぅ…っ…!」
「じゃあ、脱げよ」
 鋭く突き抜けた快感に臨也が身体を撓らせるのと同時に、耳元で低く告げられて。
 じわりとまた一つ、自分の中で何かが蕩けてゆくのを臨也は感じた。
「い、いの、脱いでも……?」
 臨也は本来、他人に対しては完全な攻撃型で被虐趣味は微塵もない。だが、静雄にだけは何をされても構わなかったし、また、猫科の肉食獣が獲物を弄ぶように虐められると、ぞくぞくと芯から悦びが込み上げるのを抑えられない。
 だから、今も自分で脱ごうと思えば脱げたのに、敢えて自分からは動かなかったのだ。
「ああ」
 快楽に潤み始めた目で見上げれば、許しと共に触れるだけの小さなキスが唇に降ってくる。
 その感触の優しさにうっとりと溺れながら、臨也は、じゃあ、と静雄を見上げたまま、手さぐりでボタンのパジャマに指を懸けた。
 手元を見ないまま、敢えてゆっくりゆっくりとボタンを上から三つ外し、スローモーションのように胸元を開く。わざと全部のボタンは外さなかったのだが、そのあざとさを見逃すことなく静雄は反応して、目の色を深くした。
「ね、触ってよ……」
 ひそめた声で誘いかければ、静雄は眉をしかめて熱くなった息を小さく吐き出す。
「お前、エロすぎだろ」
「……そんなの、当たり前だろ。君とSEXしてる最中なんだから……」
 ただの恋人を超えた、生涯の伴侶と定めた相手と抱き合っているのに、いやらしくならなくて一体いつなるのか。
 全身全霊を込めて誘い、煽っているのだから、反応してもらわなければそれこそ困る。
 そう思いながら臨也は手を伸ばし、静雄の右手を取って引き寄せ、指先にそっと口接けた。
「この指でいっぱい触って、気持ち良くしてよ、シズちゃん」
「……ったく、しょうがねえ奴」
 苦笑交じりの溜息をつくように呟き、静雄は臨也に口接ける。噛み付くような激しく深いキスに、臨也もためらうことなく応じた。
「もうヤだ許してくれって泣くまでやっても、文句言うなよ」
「言わないけど、うんと優しくしてくれないと駄目」
 だって三週間ぶりなんだよ、と静雄の頬を指先でそっとたどりながら訴えれば、それもそうだな、と静雄は小さく笑った。
「じゃあ、もっと激しくしてくれもう嫌だってお前が泣くくらい、優しくしてやるよ」
「……いいけど、そんなに泣かせたいの?」
「おう」
 臨也が軽く眉をしかめて問えば、静雄は悪びれもせずに臨也の頬や目元に幾つものキスを落としながら肯定する。
「お前の泣き顔とか、泣きながら嫌だ嫌だって言う時の声、すげぇクるんだよ。エロいし可愛いし。丸ごとバリバリ食っちまいたくなる」
「……あ、そう」
 悪趣味、とは言えない。SEXの最中に静雄にそう思ってもらえるのは、臨也にとっても本望だからだ。
 ただ、可愛いという語彙には、嫌じゃないけど嫌だという相変わらずの心理が働くため、手放しには喜べないのも相変わらずだった。
 でも、と臨也は呟く。
「まあ、俺もしてる最中に虐められるのは嫌いじゃないしね……」
 こちらが反射的に嫌だと口走ってしまうところを更に責め立てられた時の快楽は、それこそ奈落に落ちるかと思うほどに深い。
 だから、「嫌だ」と「もっとして」がイコールであるのは既知の事実で、散々抱き合ってきた仲としては今更確認することでもない。
 そんな風にぼんやりと考えていると、またもや唇をついばむような優しいキスで奪われた。
「俺も、やってる間だけはお前のことを滅茶苦茶虐めたくなるんだよな」
「……うん、知ってる」
 悪びれることもなく言われて、臨也は小さく笑む。
 気が狂うかと思うほど焦らしに焦らされ、追い詰められるのが臨也は好きだったし、静雄も焦らしに焦らして泣かせるのが好きなのだから、最高に相性がいいと言うべきなのだろう。
「じゃあ、二人でうんと気持ち良くなろう?」
 微笑んで静雄の首筋に両腕を回せば、当然とばかりに笑みを返される。
「途中で根を上げんなよ」
「そりゃ上げるよ。上げるけど、でも止めないで。嫌だって言って泣いても、もっと気持ち良くして」
「おう」
 甘くねだれば、望むところだとばかりに口接けられる。
 その熱く甘やかな歓びを、臨也は目を閉じて受け止め、同じだけの歓びを返した。

to be continued...



>> NEXT
<< BACK