Photogenic Moon 1








 ひどく悩み、苦しんでいることは知っていた。
 出会ったばかりの頃のように四六時中、一緒に居ることは、もう随分と難しくなっていたが、多少、日々の生活リズムがすれ違っていても、それくらいのことに気付けないわけがない。
 けれど、こちらからは何も言わなかった。
 言うべきことなどなかった、という方が正しいだろう。
 どれほど時間がかかっても、彼は、必ず答えを見出す。
 そう分かっていたから。
 ただ、傍にいた。
 時間が許す限り、傍に居て、共に食事をして、他愛ないことを語り合った。
 それこそが自分にとって──自分たちにとって、一番大切なことだったから。

*           *


  「いらっしゃ……楊ゼンさん!」
 夜の酒場には少しばかり似つかわしくないと誰からも言われる溌剌とした声で、客商売の常套句を言いかけながら肩越しに振り返ったその先。
 店の入り口によく見知った相手の姿を見つけて、グラスを磨いていた天化の手が止まる。
 けれど、天化が『酒場のバーテンダー(但しアルバイト)』という自分の立場を本当に忘れてしまったのは、その直後のことだった。
「あ、今日はお一人さんじゃなくって、お連れさん、が……」
 友人とも言っていいくらいの付き合いのある知人に続いて、店内に入ってきたその人を見た瞬間。
 仕事柄、綺麗な人間など見慣れていたはずなのに、思わず言葉が出なくなった。
「あれー、太公望。久しぶり」
 そんな天化の金縛りを解いたのは、店内に他の客がいないのをいいことに、横合いからオーナーが気安くかけた声で。
「太公望……さん?」
 その人を見つめたまま、思わず、呟きが天化の口から零れる。
 その名前は知っていた。
 というよりも、飽きるほど聞かされた、という方が正しい。
 情報源はもちろん、いま天化の隣りにいる雇い主である。
 が、その人と目線が合うよりも早く、その人を連れてきた友人が、紹介するよ、と告げて。
「僕の高校時代からの先輩で、この店で君の前にバイトしてた人。先輩、彼が天化君です」
 紹介というにはあまりにも簡単な説明に、その人は苦笑するでもなく綺麗に微笑んだ。
「太公望という。こうして知り合ったのも何かの縁だ。よろしくな」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いするさ」
 挨拶しつつも天化は、思わずしげしげと目の前の人を眺めずにはいられなかった。
 ありふれた、けれど襟元の縫製を見れば相当仕立てのいいものと分かる綿シャツに、ブラックジーンズという黒系統でまとめたシンプルな服装は、すっきりした細身のスタイルによく似合っていて、まるで黒という色彩が磁力を発しているかのように、不思議に目線が吸い寄せられる。
 けれど、本当に他人の視線を吸い寄せるのは、色彩のせいでも何でもなく。
 ───この人の、瞳。
 何と表現すればいいのだろう。深い深い色で、凛と澄んでいるのに底が見えない。
 まるで、誰も知らない遠い、深い海の底を映してでもいるかのようで。
 この瞳を、カメラのレンズを透して見たらどう見えるのだろう、と今すぐ、バックヤードに駆け込んで荷物の中から愛用の一眼レフを取ってきたい切実な思いが胸に沸き起こる。
 が、相手は初対面の人物だ。さすがにそれを実行しないくらいの分別は、自他共に認めるカメラ小僧の天化の中にもあった。
「すまぬな。楊ゼンから話は聞いておったし、もう少し早く挨拶に来たかったのだが、今日まで時間が取れなかった」
「いや、オレっちは別に……」
「そうだよ、薄情だよ。バイト辞めた途端に、ぱったり顔を見せなくなってさ」
「だから、忙しかったと言っておるだろう」
 肩をすくめてオーナーをあしらいながらも、太公望は、オーナーが手早く作った綺麗なアプリコットオレンジのカクテルのグラスを手に取る。
 そして、一口それを含んだ唇が、満足げに形良く笑みを刻んだ。
 が、その綺麗な形に見惚れる間もなく、今度は、オーナーのじゃれるような言葉に、ほどよく皮肉をブレンドした言葉を返す人の、悪戯めいてさりげないのに深くきらめくような瞳の色に、思わず目を奪われる。
 言葉も浮かばないまま、ふと見ると、その人の隣の席では友人の青年が、見たこともない優しい顔でその人を見つめていて。

*           *


「は──」
 それじゃあまた、という挨拶と共に二人の客が出て行った途端に、天化の口から大きな溜息が零れた。
「あれ、どうしたんだい?」
「んー、なんていうか、ちょっとびっくりしたさ」
「ふぅん?」
 太乙はグラスを磨く手を止めて、アルバイトの青年を見やる。
 楊ゼンの友人だという彼は、太公望の後釜として先月の終わりからこの店で働き始めたばかりの新人だが、真面目で器用で物覚えが速く、バーテンダーとしてはいささか気質が健全すぎるという以外は、まったく文句のつけようのない人材だった。
 普段はプロカメラマンのアシスタントを勤めているということだったが、元気いっぱいの悪戯っ子がそのまま大きくなったような印象の外見のままに、夜の街に怖気づかない肝の太さも持ち合わせている。
 そういう青年が、突然の友人の来訪に驚いたにせよ、びっくりした、というのは何となく不似合いであり、太乙の目が面白げにまたたいた。
「まぁ、あの二人はインパクトあるからねー。ピンでも人目を惹くけど、並ぶとまた一段とすごいでしょ」
「うん。なんつーか迫力あるさ」
「あれで堅気の学生ってのはサギだよね」
 あはは、と太乙は笑う。
「ホント、二人ともプロのモデルでも十分やっていけるさ」
「せっかくだし、スカウトしてみたら?」
「それは全然駄目。スタジオでバイトしてる時も、楊ゼンさん、モデル事務所の人とかカメラマンとかによく声かられてるけど、ぜーんぶすっぱり断っちまってるもん」
「あー。なんか光景が目に浮かぶね」
 楊ゼンは人当たりこそ悪くないが、場慣れていていることにかけては太公望といい勝負である。
 バイト先での話だから、あくまでも物腰丁寧に、だが二度とスカウトをかけられないよう、相手の望みを完膚なきまでに打ち砕いているに違いなかった。
「それにさ、楊ゼンさん、普段はあんな顔しないから。なんかイメージ違っちまって。変な感じするさ。悪い意味じゃねぇんだけど」
「彼といると、楊ゼンは全然雰囲気が違うからね。普段が優しくないっていうんじゃないけど、なんか別人でしょ」
「うん。あんな楊ゼンさん、初めて見たさ」
 驚いた、と繰り返して、天化はグラスにミネラルウォーターを注いだ。
 そして、一口でグラス半分ほどを干して、続ける。
「バイトん時の立ち話で、大事な人がいるってのは聞いてたけど……。あの人のこと、本当に滅茶苦茶大切にしてるさ?」
「うん、すごいよ。楊ゼンばっかりじゃなくて、太公望もああ見えて、楊ゼンのこととなると惚気しか言わないからね。あの二人の傍にいると、当てられっぱなし」
「太公望さんもさ?」
「あんな美人だし、一見クールそうに見えるけどね。惚気出したら止まらないよ」
「へえ」
 今度機会があったら、つついてみるといいよ。大蛇が出てくるから、と笑った太乙に、天化は感心したような驚いたような顔で、グラスに残っていた水をまた一口干し、それから先程の印象を思い起こすように首をかしげた。
「……何つーか……綺麗ってだけの人じゃなかったさ」
 単に顔かたちの綺麗な人間なら、巷にあふれかえっている。
 人物でも風景でも興が向いたら何でも撮る無節操なプロカメラマンのアシスタントを三年も務めていれば、美形など見飽きているといった方が正しかった。
 けれど、違うのだ。
 プロのモデルでも本当の一握りの人間しか持たない輝き。
 人目を惹き付けて離さない磁力、あるいは魔力のようなものが、今夜出会った人の中にもあって。
「楊ゼンさんが選んだ人だっていうのも、分かる気がする」
「そう?」
「うん。俺っちもだけど、やっぱこういう仕事してると、人を見る目は厳しくなるさ。美容整形とかは一目で分かるし、カメラってモデルの内面まで写してなんぼ、ってとこあるし。『本当に』綺麗じゃないと、好きになんかなれないさ」
「それは分かる気がするね」
 グラス磨きを再開しながら、太乙はうなずく。
「人間って、案外、目を見れば分かるからね。いい奴なのか、そうじゃないのか……。自分が年を取ったのもあるけど、本当に誰かを綺麗だと思うのは、決して目鼻立ちだけの問題じゃないと思うよ」
「そうさ。だから、楊ゼンさんがあの人のこと、好きになったのも当然だと思うさ。俺っちだって、今の彼女と知り合う前にあの人と会ってたら、きっと好きになってたと思うし」
「おや。楊ゼンのライバルになる気はないんだ?」
 泥沼の三角関係を期待したのに、と笑った太乙に、
「こう見えても俺っち、一途だから」
 天化は悪戯っ子めいた顔で、にっと笑った。
「自分で言うかい?」
「言うさ。ホントのことだもん」
 そして、ようやく自分の仕事を思い出したのか、天化は新しいカクテルグラスを取り出し、練習用のレシピノートをカウンターに広げる。
 その様子を、太乙は微笑ましく眺めやった。
「天化君の彼女は、そんな美人なんだ?」
 問われた途端、天化は百点満点の笑顔になる。
「すっげー可愛いさ。スタイルも滅茶苦茶いいし。若い女の子向けブランドのモデルやってて、一生懸命仕事してる。だから、俺っちも負けられないさ」
「へえ」
「彼女は、俺っちのフォトジェニーだから。彼女を一番綺麗に撮れるカメラマンになるのが、今の俺っちの目標」
 楽しげに語りながら、天化はレシピノートを確かめ、手際よく複数のリキュールを合わせてシェイクする。
 もともと勘がいいのだろう。危なげのない手つきで、完成した淡い琥珀色のカクテルをグラスに注いだ。
「味見、お願いするさ」
「うん」
 カウンターの上で照明を受けてきらめくグラスを取り上げ、太乙は色合いと香りを確かめてから、一口、口に含む。
「悪くないね。あともう少し、気持ちだけシェイクすると口当たりがもっとやわらかくなるよ」
「もうちょっとさ?」
「そう。今の条件なら、あとほんの二、三回ね。その時によって微妙に加減が変わるから、気持ち、なんだけど」
「んー」
 難しい、と言うようにグラスを見下ろす天化に、太乙は笑った。
「カメラの露出や現像と一緒だよ。これも経験の積み重ね」
「……そう言われると、何だか納得したくなるさ」
「したくなるんじゃなくて、するんだよ」
 最近の若い子は、と笑いながら太乙は時計の針の位置を確かめ、そろそろ終わりにしようか、と告げる。
 もともと火曜の夜は、客の入りが悪い。これ以上営業を続けても、遅がけの客が来る見込みはなかった。
「じゃあ、カウンターの中は私がやるから、フロアの片付け、頼んでいいかな?」
「もちろんさ」
 快く返事をすると天化はフロアーへ出て行き、軽い足取りで各テーブルの椅子をテーブルの上へと上げると、床にモップをかけ始める。
 その様子を横目で見ながら、太乙は洗い物を再開すべく蛇口の栓を捻り、何気ない口調で天化へと話しかけた。
「天化君はさ、楊ゼンの恋人が太公望だっていうのは驚かなかったんだ?」
「へ?」
 グラスを洗う軽やかな水音を立てながらの問いかけに、天化は驚き顔でモップをかける手を止めた。
「その顔は、全然気にしてないみたいだね」
 思ってもみないことを訊かれた、というのが丸分かりの天化の表情に、太乙は苦笑する。
 すると、質問の意味を理解したのか、天化は困ったように頭に手をやった。
「俺っちも今日まで、楊ゼンさんの大事な人が太公望さんだってのは知らなかったさ。でも、驚いたかっていうと……」
 そうではなくて、と天化は言葉を探す。
「さっき、楊ゼンさんに続いて店に入ってきた太公望さんを見た瞬間に、この人だって分かったさ。さっきも言ったけど……俺っちは今んとこ女の子しか好きになったことないけど、多分、本当の本当に綺麗な人なら、相手が男でも女でも関係なくなる気がする。楊ゼンさんも、同じなんじゃないかと思うさ」
「つまり、驚く前に納得しちゃったってことか」
「うん」
 『綺麗』ということにこだわる芸術家の卵らしい返事に、なるほど、と太乙は微笑した。
「でも、そういうマスターも全然気にしてないさ?」
「うん。君の言う通り、太公望は本当に『綺麗』な子だし、楊ゼンもいい子だし、それに何と言っても、二人でいるとすごく楽しそうだから。好き同士で一番大事なのは、赤の他人の意見じゃなくて、本人たちが幸せかどうかでしょ」
「あ、それは賛成」
 同意して、それから天化はモップをに寄りかかるようにしながら、ふと首をかしげた。
「そういえば、マスターは? 恋人とかいないさ?」
「私かい?」
 無邪気そうに訊かれて、太乙は口元に笑みを刻む。


「今はいないよ。私はバツイチだしね」


 その返答に。
「ええ───っ!?」
 天化は思わず叫び声をあげる。
 その様子を、太乙は楽しげに眺めた。
「楊ゼンの恋人には驚かないのに、なんで私がバツイチだっていうのには、そんなに驚くかなあ」
「え、だ、だって……」
 口をパクパクさせるが、言葉は何も出てこず、ほどなく天化は力が抜けたように肩をすとんと落とす。
「なんか、すっげー驚いた……」
「だから、どうしてそう驚くの」
 面白そうに笑いながら、太乙は蛇口の水を止める。
「今時、バツイチなんて珍しくもなんともないでしょ」
「それはそうだけど……。なんか全然、想像つかないさ」
「何が? 私が妻子持ちだったってことが?」
「──妻子って、まさか子持ちだったさ!?」
「まさかじゃなくて本当。奥さんも子供もいたよ」
 その言葉に。
 またもや天化は唖然となる。
 そうして、雇い主の姿を上から下までじっくり見つめて、信じられない、と言いたげに首を振った。
「全然想像できないさ……」
 困惑の極地に追いやられた青年の様子に、太乙の笑いも苦笑へと変わる。
「まぁ、私が妻子持ちだったのは十年近くも前の話だし、その頃でも結婚してるようには見えないって言われてたから。君の感想は、そう間違ってないと思うよ」
 そして、布巾でグラスの水滴を拭い、棚へと一つずつ戻していきながら話を続けた。
「元奥さんと結婚したのは、私が大学院に入ってすぐでね。元奥さんは人の世話を焼くのが好きな女性で、研究室に籠もってばかりの私を、放っておけないって半ば押しかけで籍を入れたんだ。一年後には息子も生まれたんだけど、その子が三歳になった時に、彼女が私よりももっと世話のし甲斐のある人を見つけちゃって。
 私のほうは、彼女のことは好きだったけど、家庭のことよりも仕事に没頭していた時期だったし、その人と一緒になるほうが彼女が幸せなら、それでいいかと思ってね。そのまま離婚届に判を押して終わり」
「──なんか……それって、元奥さんがひどい気がするんだけど……」
 知らない人の悪口は言いたくないけど、と眉をしかめながらも天化が言うと、太乙は構わないと笑んだ。
「端から見たら、そう見えるだろうけどね。私は研究室に籠もり切りで家に殆ど居なかったし、彼女はとかく手のかかる相手……子供とか、いわゆる駄目男の面倒を見るのが生き甲斐というタイプだったし。それに、離婚を切り出したときの彼女が、面白いくらいに悪びれてなくてね。
 『あなたより駄目な人を見つけてしまったの。あなたは最近、言わなくても三度の食事をするようになったし、私がいなくても何とかやっていけると思うけれど、あの人は私がいなかったら絶対にのたれ死んでしまうと思うから、あの人の所へ行かせて下さい』ってね。そんな風に言われたら、はあ、そうですかって納得するしかない気がしたんだよ」
「──何ていうか……」
「変な人、だろう? 変わった女性なんだよ、実際に。愛が満ち溢れてるのは間違いないんだけど」
 あはは、と太乙は笑った。
「まぁ、息子には年に何回か会ってるし、彼女も楽しくやってるみたいだし、これで良かったんだと思うよ。私も相変わらず一人身だけど、毎日それなりに楽しいしね」
 それに、と続ける。
「バツイチって、お店の女の子には不思議に受けがいいんだよ。なんでか分からないけどさ」
「……それってオヤジくさいさ」
「そう?」
 でも年齢的にはそろそろおじさんだし、と太乙は悪びれず。
 天化も、呆れたのか諦めたのか、溜息をついて肩の力を抜いた。
「なんか今夜は、びっくりしすぎて疲れたさ」
「それは悪かったね」
「別にいいけど……。でも、マスターがバツイチってこと、楊ゼンさんたちは知ってるさ?」
「いいや。話したことはないから知らないと思うよ」
「……そうなんさ?」
「自分から言うことじゃないし、あの子たちは他人の事情には、あんまり関心がないみたいだし。それ以前に、あの子たちはお互いに夢中だから、私が結婚してようがしてなかろうが、どうでもいいんじゃないかな」
「……そんなもんなんかな」
 ふと考え込むようにまなざしを遠くした天化を、太乙は穏やかな目で見やる。
 そして、きゅ…と音を立てて最後のグラスを拭い、丁寧な手つきで棚へと戻した。
「人それぞれだよ、天化君」
「え?」
「人との付き合い方はね、人それぞれ。初対面の相手でも平気で喋ることができる人もいるし、知り合ってから何年たっても相手に対して距離を置く人もいる。それぞれ、自分が一番居心地がいいと思う距離で人と付き合えばいいんだよ」
「───…」
 小さく目を見開いて、天化は太乙を見つめ。
 それから、ふと笑んだ。
「マスターって、いい人さ」
 そのあまりにも率直な賛辞に、太乙も思わず笑う。
「どうしてそういう結論になるんだい」
「ホントのことだからさ」
 へへっ、とまるで悪戯っ子のように笑って、天化は杖代わりに寄りかかっていたモップを握り直す。
「マスター、太公望さん、また来てくれっかな?」
「来ると思うよ。なんやかんや言いながら、この店のことは気に入ってくれてるはずだから」
「そっか。じゃあさ、マスター」
「うん?」
「今度、あの人の好きそうなカクテルの作り方、教えて欲しいさ」
「いいよ。──ライバルにはならなくても、ファンにはなっちゃったんだ?」
「楊ゼンさんには内緒さ」
「それは構わないけど……でも、楊ゼンは気付くんじゃないかな」
「いーや。俺っちは気付かないほうに賭けるさ。だって楊ゼンさん、太公望さんといる時は本当にあの人しか見てねーから、俺っちがあの人を見てても、きっと分からないさ」
「あー、それは説得力があるような無いような……」
 恋する男は敏感だよ?、と言いながら太乙は、シンクを磨き上げ、天化も床にモップをかけ終えて。
 BAR窖-ANAGURA-のその夜の営業は、静かに終わった。















 久しぶりのMidnightです。
 太乙がバツイチというのを含めて、この辺りのエピソードは何年も前から作ってあったのですが、やっと表舞台に出せました。
 ちなみに天化の彼女は、蝉玉です。天蝉好き……。
 太乙の元奥さんと子供は、言わずもがな。あの人とあの子です。

 今回は太乙と天化中心でしたが、次回からはいつも通り、楊太メインに戻ります。





NEXT >>
BACK >>