#016:シャム双生児







「生まれた時から、言葉通りに一心同体というのはどんなものなんでしょうね」

付けっ放しのままのテレビからは、定時のニュースが流れていた。
画面に映し出されているのは、20年ほど昔の異国の戦争の爪痕。
彼もまた、見るともなしに見ていたのだろう。呟かれた声に、太公望は雑誌をめくっていた手を止めて顔を上げる。

「臓器も血液も分け合って。でも結局、二人分の生命活動を補うには欠けた臓器では足りないから、成長期に入る前に分離手術と臓器移植を受けなければ生命が危険。・・・・でも、引き離される時には・・・・」

きっと辛い、と。
呟く横顔を見つめて。

「──難しいな。むしろ物心つく以前の赤ん坊なら、親の意向で分離するしないも決定できるだろうが・・・・・」
「ええ」

ソファーの背凭れ越しに、彼が振り返る。
その瞳に何とも表しがたい、微笑とも自嘲とも取れるような淡い色が滲んでいるのを、太公望は無言で受け止めた。

「僕なら、離れたくないかもしれません。そのままでは死ぬと分かっていても・・・・死にたくなくても」
「・・・・・それでは緩慢な自殺だぞ」
「それでも」

言って、楊ゼンはソファーから立ち上がる。
そして、壁際で大きなクッションに体を預けている太公望の元まで、ゆっくりと近付いてきて。
上体をかがめて、さらりと太公望の髪に手を触れる。

「僕の半身があなたなら。離れたくない」
「・・・・・阿呆」
「ええ。それでもきっと、最後の最後にはあなたを殺したくなくて分離手術を承諾してしまう愚か者です、僕は」

「けれど、どんなに離れてもあなたを想っている。・・・・あなたを、愛してる」

深い、低い声に太公望は溜息をつく。
そして、膝の上の雑誌を放り出し、自分の髪に触れている男の手を取った。

「おぬしはとことん阿呆だな。少し人恋しくなると、途端に気弱になる」
「・・・・すみません」

ゆっくりと肩に手を伸ばし、抱き寄せると楊ゼンは床に膝をつき、同じように手を伸ばして太公望を求めてくる。
肌と肌が触れ合う温もりに酔うように、太公望は目を閉じて。

「大丈夫だよ。わしはここに居るし、たとえ何かの事情で遠く離れても、何も変わらない」

あやすように静かに語りかける。
と、抱きしめてくる楊ゼンの腕の力が強くなった。

「すみません、師叔」
「・・・・もう慣れた。今更謝るな」
「はい」

答える声とともに、少しだけ楊ゼンが離れて。
優しい口接けが降りてくる。
謝罪するような、いたわるようなやわらかさで舌が絡み合い、そこから生まれる甘さに二人で溺れる。
確かに二人で一つだったら、きっと離れがたいと思いながら。

「──ずっと、あなたと繋がっていられたらいいのに」
「そう、だな」

けれど、時も場所も異なって生まれた者同士、どんなに近くに寄り添っても血を通わせ合うことは出来ない。
だから。

一抹の寂しさを心の奥底に沈めながらも、互いを抱きしめる。

「今だけ・・・・、ほんの一時だけでもいいから」

一つになりましょう、と。
ささやかれる声に、口接けで答えて。
甘い熱から生まれる一瞬の錯覚に溺れるべく、太公望は目を閉じた。










最初はOnly youの設定でやるつもりで書き出したんですけど、楊ゼンが気弱すぎたので別設定に。
この2人は何でしょうね。大学生くらいで一緒に暮らしてるのかな。
でも、楊ゼンも太公望も、それぞれにすごく深い痛みの記憶を背負ってそうです。
記憶というより、現在進行形の痛みかも。

雰囲気暗いですけど、なんか書きやすいカップルなので、きっと今後も、こんな細切れで出てきます。
ていうより、この先を書かんかい!、という感じでしょうか?
でも書くと長くなるんだも〜ん。


100のお題に戻る >>
小説リストに戻る >>